万緑に産声は聞こえずとも(1/2)
まだ7月を生きている気持ちだった。
ひんやりした風が部屋の中を吹き渡り、花火も祭りもない夏は今年も静かに過ぎ去ってしまった。
日記を放置した間にとんでもないウイルスが世界を震撼させている。
街中見渡しても、一年中みんなマスクがかかせない異常な光景。
そんなコロナ禍に娘は誕生した。とんでもない難産であった。
予定日を超え大学病院へ入院。
バルーンを入れ子宮口を開く処置2日間。
陣痛促進剤の投与。
自分のホルモンで起こる陣痛ではないので痛みは強くなる、と助産師さんが教えてくれた。
1分おきに陣痛がくるが娘の頭はお産の向きにならず子宮口も開かず、破水から時間だけが経過する。
ベッドでのたうち回り、ナースコールを何度も押した。
歳下の助産師さんに「ひとりにしないでください」と泣きすがった。
睡眠薬をください、陣痛をおさえる痛み止めをください、お腹を切って早く出してあげてください、、
こんなことをお願いしていたら、夜中に担当医がやっと来てくれた。
「翌朝まで待つつもりでしたが、帝王切開に切り替えましょう」
そこから手際よく手術の準備が行われ、夜中に両親が駆けつけて手術室前まで見送ってくれた。
MRIを撮るときも陣痛で暴れまわり、麻酔が効くまで苦しみは続く。
助産師さんがお腹にエコーを当て心拍を確認しながら、ずっと私の手を握ってくれたのが心強かった。
あれよあれよと娘は取り出された。
…あれ?産声が聞こえない。。
麻酔で嘔吐く私の元に娘を連れてきてくれたが、すぐさまNICUへ運ばれた。
続く